木曽の五木(ヒノキ、ネズコ、サワラ、アスナロ、コウヤマキ)はいったいどんなところに自生しているのだろう? 秋の1日、木曽谷の奥、水木沢天然林を訪ねた。
今日の記事はフィールドノート。
ここ、木祖村の水木沢天然林は一応、天然林とされているが、木曽谷の樹林は木曽五木の一大生産地として、尾張藩の時代から、大切に管理されてきた歴史を持つ。
直径40〜50cm近いブナも多いことから、かなり自然植生に近いと思われるが、
それでも、ヒノキやサワラ、ネズコなどを選択的に残す手入れがなされてきたのではないかと感じられた。
おそらく、自然植生であれば、もっとブナが優占していたのではないかと。
下層は多様な広葉樹と、そしてクマイザサが繁茂している。
遊歩道沿いにはヒノキ、そしてサワラの樹幹が直径2mもあろうかという巨木がそびえ立つ。
そうか、ここは母樹林の役割を持たせるために残されてきたのかもしれない。
こちらはサワラの巨木。
おそらく樹齢は数百年。
人間の尺度では到底測り切れない、遥かなる時間の流れ。
沢沿いの樹林は主に
サワラ、トチノキ、サワグルミ、ウラジロモミ
で構成されていた。サワラはやはり湿ったところが得意なのだ。
静かにしていると、時々葉っぱのガサッという音がする。
動物?いいえ、それはトチの実の落ちる音。
森は実りの季節。この美味しそうなナッツはリスやネズミが運ぶのだろうか。
尾根沿いの樹林は、
ネズコとヒノキが多い。
それからキタゴヨウ。
ネズコの樹皮はヒノキやサワラのように縦に裂けておらず、赤みがかっており、白い斑紋がある。
たくさん見ていくうちに見分けがつくようになって、なんだかうれしい^^
尾根沿いの、少し明るい遊歩道の脇では、こんなにヒノキの実生がぞくぞくと。
樹高30mもあろうかと思われる大きなキタゴヨウの下に、キタゴヨウの実生が。
場所から推察すると、動物に埋められたのではなくて、おそらく、落ちた松ぼっくりからこぼれた種が運よく発芽したと思われる。
でも残念ながら、この親木の真下で大きくなるのは難しいと思うけれど。
長野県内でもブナの樹林は、限られたところにしか残っていない。
ここでは、大きなブナたちが生き生きと枝葉を広げている。下層には次の世代のブナも育っていた。
湿った遊歩道沿いの斜面地で
キケンショウマ(キンポウゲ科)の開花に出会う。
中信・南信の山地帯に自生する日本固有種。長野県は分布の北限で、西は滋賀県まで分布。
自然植生の森の力強さ。
なるほど、ヒノキ科の本来の自生地の環境を体感する。
森を後にしてから、
道路沿いの明るく湿った土手で、アケボノソウの開花に出会う。
端正な美しさをもつ花。花弁の模様を月と星に見立てた宇宙的な名前がさらに美しさを引き立てるよう。
そして庶民派のノコンギクも。蕾の紫色がかわいらしい。
人の手が入った自然の植物たちは、どことなく親しみがあって、ほっとするかわいらしさ。
これは人類の遠い記憶に刻まれた感覚なのかも。
自然度の高い深い森と対比するとなおのこと、そう思う。