ドイツ・スウェーデンにおけるキクイムシによるトウヒ枯れ

By siki, 2025年10月26日

きっかけ

スウェーデンのストックホルムからバスで1時間ほどに位置する、Tyresta(ティレスタ)国立公園。

私たちは公園のガイドのマッツさんの案内で森を歩いていた。すると針葉樹の倒木が複数みられるエリアで、マッツさんから「この森は健康だと思いますか?」と投げかけられた。

うーん、この倒木は天然更新によるものなのか、それにしては樹齢が若いし、多いな、と考えていると、近年、大変問題になっているキクイムシによる被害であるとのこと。日本の松枯れと様相が似ている。

さらにその後訪れたドイツのザクセンスイス国立公園でも、深刻な状況がみられた↓

 

被害木はヨーロッパトウヒ(ドイツトウヒ)

 

被害木は主にヨーロッパトウヒ(学名:Picea abies、英名:Norway spruce)。

和名はドイツトウヒでもあるのだが、日本で見るドイツトウヒよりも球果が小さく、ドイツトウヒと呼ぶのは少し抵抗があることやドイツは分布の辺縁であることなどから、ここではヨーロッパトウヒと呼ぶ。

 

ヨーロッパトウヒの自生範囲は下図のように、本来の分布の中心は東〜北ヨーロッパにある。自生するエリアは、スウェーデンは全土であるが、ドイツは南西〜南の国境付近のみだ。ドイツのヨーロッパトウヒはかなり人為的に植林されているのがわかる。(出典:https://www.euforgen.org/species/picea-abies

先ほどの出典によると

  • ヨーロッパで最も経済的に重要な針葉樹であり、植林地で最も多く利用されているため、炭素貯蔵において重要な役割を果たしている(Radu et al. , 2014)。
  • 木材は高品質で繊維が長く、建設や製紙業に広く利用されている。
  • 対称的な樹形と密集した葉から、クリスマスツリーとしても好まれる。
  • 中央ヨーロッパにおける長い栽培の歴史により、原産地をはるかに超えた地域にも導入されてきた(Skrøppa, 2003)。」

 

枯死の原因は、ヨーロッパトウヒキクイムシ(学名:Ips typographus

 

ヨーロッパトウヒキクイムシ(学名:Ips typographus)

なんと、学名を記載したのはカール・フォン・リンネだった(1758年)。typographus という種小名は彫刻家という意味だという、なかなか素敵。詳しい生態はこちらに。(forestresearch))

画像:wikipedia

 

日本ではヤツバキクイムシ(Ips typographus japonicus)名が使われている。ユーラシアの種とは別亜種とある。(出典:北海道林業試験場

寄主は、トウヒ属のエゾマツ、アカエゾマツ、ドイツトウヒ、そしてマツ属のヨーロッパアカマツ、チョウセンゴヨウ、ストローブマツ。エゾマツ・アカエゾマツがある北海道には生息する。本州でも記録があり、チョウセンゴヨウにいるのだろう。

 

気候変動との関係

日本の松枯れは、アメリカから運ばれてきた線虫(マツノザイセンチュウ)によって引き起こされているのに対して、こちらのキクイムシは在来種だ。(木材に青い筋が入ところは似ている)そのメカニズムはじゅうぶん解明されていないということだが、気候変動との関係が大きいとされる。

大気の乾燥・高温の頻度・強度が高まることで、トウヒの樹体が水ストレスを受け、防御物質(たとえば樹脂、テルペン類)の産出量が減り、反応性が変化し、結果として甲虫の侵入しやすい条件が整う。これが要因となって大発生しており、ヨーロッパトウヒを枯らしているのだという。このキクイムシは弱った樹木のほうが入りやすいが、増加すると健康な樹木にも拡大する。

ヨーロッパの林業は現在、深刻な打撃をうけている。あちこちでトウヒの枯れた姿をみて、気候変動のダイレクトな影響を肌で感じた。

 

以上、簡単なレポートとまとめでした。また時間があれば追加しようと思います。